診療内容・方針

SAD(社会不安障害)

以下の項目に該当するものがあったら、あなたは社会不安障害かもしれません。
早めに診察を受けるようにしましょう。

  • 人前で何か行動したり話をすると、恥をかいてしまうのではないかという強い恐怖感がある。
  • 過ちをおかしてしまうことや、誰かに見られ、評価されることがとても怖い。
  • 恥をかくことが怖くて人に何かをしたり、話し掛けたりできない。
  • 人と会うことになると、何日も何週間も悩む。
  • 知らない人と一緒にいる時や、その前になると、顔が赤くなったり大量に汗をかいたり、震えたり、吐き気がする。
  • 学校の行事や人前で話すような社会的状況を避けることが多い。
  • これらの恐怖を追い払うためにしばしばアルコールをとる。

SAD(社会不安障害とは)

SAD(社会不安障害)という病気は、"人前で恥ずかしい思いをするのではないか"と過剰な心配をするために恐怖心が非常に強くなり、そのような場面に遭遇すると、紅潮、発汗、震え、動悸、どもり、下痢、腹痛といった症状が現れます。このような症状が"また起こるのではないか?"といった不安を引き起こし、人が集まる場面を避けるようになります。その結果、学業や就業、さらには結婚などの社会生活に大きな問題を抱えてしまうことになるのです。

また、厄介なことにSADは、うつ病、アルコール依存、パニック障害やその他の精神疾患を引き起こす原因となり、悪化すると自殺を考えることもあります。したがって、早期発見と適切な治療が必要なのです。

SADに罹っている人は多くいると考えられていますが、この病気に関する情報も少なく、周囲の人に「病気だ」と理解してもらえないのが現状です。
SADは15歳前後に発症し、25歳以降の発症は少ないと言われていますが、幼い頃に発症しながら病気と気付かず「性格の問題」と思い、我慢して日々を過ごしている方が大勢いると考えられています。
なお、SADは不安を感じる場面が1つか2つに限られているタイプを「非全般型」、人前でのあらゆる場面で不安を感じるタイプを「全般型」と言います。

SADと診断されたら・・・

SADは脳内の神経伝達物質のバランスの崩れによる、脳神経細胞の機能障害と考えられていますので、神経の機能を調整する薬と精神療法を用いて治療することができます。
安心して早めにご相談下さい。

SADの治療法

薬物療法

薬物療法は、学校や職場など恐怖心が強く出る場面を避けるといった回避行動を減らし、不安感を抑え、身体症状の緩和を図ります。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)SADの治療には抗うつ作用と抗不安作用を持つ、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)というお薬を用います。欧米ではすでに利用されていましたが、日本でもその効果が認められ、認可されたSSRいがあります。
  • 抗不安薬抗不安薬はSSRIと比べて即効性がありますので、強い不安による身体症状に対して、また、SSRIの効果が現れるまでの間、積極的に用いられています。ただし、抗不安薬は大量あるいは長期の使用では依存性が問題となりますので、抗不安薬の中でも依存性の問題が少なく、やめるときにも問題が少ないタイプを、できる限り少ない量、短い期間で用います。
  • β遮断薬高血圧などに用いられるお薬です。
    非全般型には効果がありますが、全般型には効果が少ないと言われています。

精神療法

精神療法の1つに「認知行動療法」があります。認知行動療法とは、簡単に言いますと、不安を抱き、その不安から回避する恐怖状況に直面できるように医師やカウンセラーの力を借りて行う精神的な治療法です。
お薬の服用によって不安が弱くなってきたら、治療効果を高めるために、お薬の服用と共に精神療法を開始する場合と、最初からお薬を服用せずに精神療法を行う場合があります。

SADを治療しないと・・・

SADに関するアメリカの調査では、SADはうつ病やアルコール依存、パニック障害などを引き起こす原因となり、そのようなほかの精神障害との合併が6割近くにのぼると言われています。
ほとんどの場合、SADの発症が先行しています。

また、自殺企画がSAD単独の場合は約1%であるのに対し、うつ病を合併すると約16%にも達すると報告されています。
したがって、早い時期に適切な治療を受けることが大切です。

「パニック障害」との違い

SADは、人前での場面がきっかけとなり、発症します。
人前で常に強い苦痛を感じ、「顔が赤くなる」、「動悸がして息苦しくなる」、「手足、全身、声の震え」などの身体症状が現れることを恐れ、次第にそうした場面を避けるようになって、対人関係や日常生活に支障をきたすことがあります。

パニック障害も人前で症状が出る病気ですが、こちらは場所・時間に関係なく、突然得体の知れない恐怖感を感じ、激しい動悸や、立っていられないほどのめまいに襲われ、呼吸困難となり「このままでは死んでしまうのでは?」という恐怖に襲われることがあります。そして逃げ場のない恐怖感や、また発作を起こすのではないかという不安で、発作を起こしたり乗り物や場所を避けるようになり、日常生活に支障をきたすことがあります。

SADの原因とは・・・

最近の研究では、大脳の中心部にある扁桃体という部分が、不安や恐怖の発症と密接に絡んでいて、この部分がスイッチとなり恐怖症状が現れるのではないかと考えられています。
そして、ギャバ神経(γアミノ酪酸:GABA)とセロトニン神経と言う細胞が扁桃体の興奮を緩和し、恐怖症状の発現を抑えるといわれています。さらに、扁桃体以外にも脳にはこれらのセロトニンやギャバ神経細胞が沢山あり、脳全体の機能を調節しています。

これらの神経伝達物質のバランスが崩れてしまうことが、SADを発症する原因と考えられています。

ご家族の方へ

お子さんやご兄弟のことを、「内気な子」「無気力な子」と思っていませんか?
SADは生涯続く場合が多く、恋愛や結婚、仕事に大きな障害を抱えることになります。もし、ご家族の方で、身内の方がSADの症状と似ていると気付かれたら、"早く気が付いてよかった"と考えてください。
SADに悩む本人は、自分の悩みを理解して欲しいと思っています。"自分ばかり悩んでつらい思いをしている"という「孤独感」を与えないようにサポートすることが必要です。
たとえば、恐怖感からくる回避行動は「無気力」ではありません。無理強いなど病気に対する無理解は病気の悪化を招きます。
本人がプレッシャーを感じずに社会生活を送れるように"話を効いてあげる" "無理強いしない"など、本人が負担を感じない状況を作ってあげてください。

また、医療機関を受診し、症状が少し治まってくると、"楽になった" "薬の副作用が怖い"などの理由で、薬の服用を自分勝手にやめてしまうことがあります。勝手は判断は治療の妨げとなるばかりか、症状の再燃やうつ病やアルコール依存、パニック障害や他の不安障害などの精神疾患を引き起こすきっかけとなりますので、薬は長期にわたって服用することが重要です。

そのためには、医師から処方された薬を指示どおりきちんと服用するように、家族の方の温かく力強い支援が必要なのです。